「ベンゲルさんは上から目線ではなく…」シンガポール代表監督・西ヶ谷隆之が思い返す“名将の教え”「アジアカップで日本と対戦できたら」
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28歳で選手としてのキャリアを終え、育成年代からトップチームまで、さまざまなカテゴリーで指導経験を積んだ西ヶ谷隆之。シンガポール代表の監督に就任したいま、あらためて想起する“名将の教え”とは。代表監督としてのミッションと野望について話を聞いた。(全2回の2回目/前編へ)※文中敬称略

 

 シンガポール代表監督に就任した西ヶ谷隆之は、かつての恩師に思いを馳せている。1996年のプロ1年目に、およそ半年間指導を受けたアーセン・ベンゲルだ。

 

「ベンゲルさんが名古屋からアーセナルへ行ったときに、現地イングランドのメディアは『アーセンって誰だ?』と書いたそうですが、シンガポールでは『西ヶ谷って誰だ?』でしょう(笑)。J1のクラブで監督をやったこともない自分は、基本的にマイナスからのスタートです。そこを変えていくのは結果しかない。土台作りだけではなく、育成も含めて結果にコミットしていかないと、周囲の評価を変えられないと思っています」

 

 日本で指導をしている当時とは、「立場」が入れ替わることも理解している。日本人の彼は、シンガポールでは外国人だ。

 

「シンガポールのサッカーだけでなく、他民族の人々を理解したうえで、色々なことを進めていかなきゃいけない。今回は自分が外国人になりますが、日本で成功してきた外国人選手や指導者も見てきたので、その経験値を生かしたいですね」

 

思い浮かべる監督像は「ベンゲルさんとオシムさん」

 

 新天地に溶け込むために、西ヶ谷は「目線を合わせる」ことを心掛ける。ベンゲルとともに、あの元日本代表監督の名前もあげた。

 

「まだ日本がW杯に一度も出場していない時代に、ベンゲルさんは日本人選手のポテンシャルを信じて、指導をしてくれていた。上からの目線で『教えてやるぞ』というような感じはなく、日本サッカーと日本人、日本という国をリスペクトしていました。

 

 指導キャリアで言ったら僕なんかがシンガポール代表監督に選ばれるはずがなく、強化に特化するなら適任者は他にいるでしょう。そういう方は、たとえば『スペインはこうだ』と提示して色々なことを推し進めて、それに対して『できる、できない』のジャッジをしていくと思うのですが、イビチャ・オシムさんは『日本サッカーの日本化』という話をされた。シンガポールでも日本のスタンダードを持ちつつも、あの土地に、あの人たちに合ったスタイルを、選手と一緒に作り上げていきたい」

 

 サッカーはその国の文化を映す鏡のようなものだ。国民性や精神性はもちろん、気候や風土も深く関わってくる。

 

「東南アジアの国々に対して、集中力が切れるとサッカーが荒くなるとか、諦めてしまうとか言われますが、シンガポールにもそういうところはあるようです。最後までやり切るとか、我慢強さは身につけていかなければいけないでしょうね。サッカーのスタイルとしては、気候が暑いので日本みたいに全部アグレッシブにいけるわけではない。90分間ハードワークを続けるよりも、メリハリをつけることを意識したほうがいいかなと。そのなかで、ポイント、ポイントで修正できるところはあるでしょう。

 

 と言っても、実際にコーチと話してみたら、『現実的にはこうなんだ』ということもあると思うので、自分が見ている映像と彼らが感じていることをすり合わせて、そのなかでどう改善するか。代表チームなので、トレーニングする時間は限られていますし」

 

 代表チームは集合と解散の繰り返しだ。シーズンを通してトレーニングを積めるクラブチームとは、異なるアプローチが必要になる。「そこの違いはありますが」と前置きしつつ、西ヶ谷が続ける。

 

「これまで指揮してきたチームでは、相手の良さを消しながら自分たちの強みをどうやって出すのか、ということを考えてきました。相手との力関係からそういう戦いをすることが多かったので、その点はシンガポール代表でも自分の強みとして発揮できるんじゃないかな、という根拠のない自信があります(笑)」

 

 代表チームのスタッフには、吉田達磨前監督とともに働いた日本人の人材が残っている。国内リーグにはアルビレックス新潟のサテライトチームがあり、その他のクラブでも日本人選手が多くプレーしている。新天地で仕事を進めていく西ヶ谷に、日本人のネットワークは助けになりそうだ。

 

「何かを変えないと、自分にチャンスは巡ってこない」

 

 シンガポール代表監督のポストが決まるまでは、専修大学のテクニカルアドバイザリーコーチを務めていた。東京都社会人リーグ2部のチームの指導もしていた。

 

「サッカーがうまくなりたいと思ってやっている学生や、仕事しながらサッカーをやっている社会人選手と触れ合うことができて、こちらまでピュアな気持ちになれたというか。チームマネジメントの幅が、改めて広がった気がします」

 

 5月17日に日本を発った。シンガポール入り後は住居を決めつつ、国内リーグを視察していく。

 

「これまでの指導歴で、成し遂げられていないものはたくさんあります。あるチームで監督候補にあがったけれど、決まらないこともあった。それは自分に足りないものがあり、インパクトを残せていないから。何かを変えていかないと、たぶん自分にチャンスは巡ってこない。いままでとは違う景色を見るべきだと考えていたところで、今回の話がきました。自分自身を変えるきっかけにしたいと思っています」

 

アジアカップで日本代表と対戦する可能性も

 

 監督としての初陣は、6月1日のクウェート戦だ。UAEのアブダビで行なわれるこのテストマッチを経て、同8日からキルギス、タジキスタン、ミャンマーとのアジアカップ3次予選に挑む。キルギスで集中開催される同予選でグループ首位になるか、2位チームの上位5チーム以内に食い込めば、来年6月開幕のアジアカップに出場できる。3次予選は6つのグループに分かれて行なわれるので、2位に入れば予選突破の可能性は高い。

 

「短期決戦になりますが、僕自身、一発勝負のトーナメントは得意分野としてやってきました。キルギス、タジキスタン、ミャンマーは、去年のカタールW杯2次予選で日本と対戦しているじゃないですか。その映像を含めて、どう戦うのかの準備を進めています。東南アジアで言えばベトナム、タイ、マレーシアがトップ3なので、まずはそこに食い込んでいく。アジアカップで日本と対戦できたら、日本人監督として初めてのシチュエーションになりますよね。そういうチャンスがあるということは、心にとめて予選に臨みたいですね」

 

 育成年代からプロフェッショナルまでを指導してきた西ヶ谷は、シンガポール代表を変えていくことができるのか。彼がこれから記していく足跡は、そのまま日本人指導者の可能性を映し出すものになるかもしれない。<前編から続く

 

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