18歳の超逸材、神村学園FW福田師王。小柄で無名だった元DFがドイツ挑戦を叶えるまでの軌跡
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ボルシアMGに加入内定の福田が会見を実施。「早くトップデビューして、勝たせられる選手になりたい」と意気込む。写真:松尾祐希


1年生とは思えないほど堂々とした振る舞い


今から6年前、神村学園の門を叩いた小柄な少年は県内で無名の存在だった。ポジションはDF。当時、ストライカーとして大成する予感はなかったかもしれない。

しかし、神村学園の中等部、高等部で揉まれて才能が開花した。福田師王(3年)、18歳。来年1月からブンデスリーガ1部のボルシアMGに入団するストライカーはいかにして、海外挑戦の権利を手に入れたのだろうか。

――◆――◆――

12月20日、鹿児島県の神村学園高で入団記者会見が行なわれ、「ワクワクしていて、ドイツで早く挑戦したい」と意気込みを語った福田は、異例となる高卒での欧州挑戦に胸を躍らせた。

福田の名が初めて知れ渡ったのは中学3年生の時。シーズン初めにDFからトップ下にコンバートされると、同年秋に行なわれた国体でブレイク。16歳以下で構成される鹿児島県選抜チームに飛び級で参加すると、優勝候補の千葉との一戦はFWとしてプレーし2ゴールの大活躍を見せる。

脚光を浴びると、翌年2月下旬に1学年上のU-17日本代表にチェイス・アンリ(現・シュツットガルト)とともに初招集された。当時はまだ線が細く、動き出しの良さで勝負する点取り屋でゴールパターンも限られていた。ただ、神村学園高の有村圭一郎監督が入学前の時期に「同学年の大迫塁(C大阪入団内定)もそうだけど、もう1人面白い選手がいる」と嬉しそうに話していた。

期待を背負った逸材は、入学直後からトップチームでポジションを掴み、不動のストライカーとしてゴールを重ねていく。動き出しの良さはもちろん、どこからでもシュートを狙う姿勢も持ち合わせており、1年生とは思えないほど堂々と振る舞っていた。

同年9月に行なわれたプリンスリーグ九州・日章学園戦では、相手GKが前に出ているのを見逃さず、ハーフウェーライン付近から超ロングシュートを決めた。この一撃も決して偶然ではなく、常にゴールを狙っているからこその結果だった。2年次になってもその勢いは止まらなかった。

怪我に悩まされ、万全な状態でプレーできない日々

際立つ活躍を見せられたのも、経験を積んで自信を深めたからなのだが、重要だったのは身体ができ上がったことだ。中学時代は華奢で高校入学時点の体重は54キロ。身長も175センチに満たないぐらいで、今の身体つきからはまるで考えられないほど細かった。

だが、国体での活躍や代表活動を通じて、プロサッカー選手になる夢を現実的な目標として捉えると、意識が変わって食生活を見直す。母親に協力してもらい、タンパク質を中心にバランスの良い食事を心がけ、量や1日の食事回数も増やした。

その結果、3年間で体重は16キロ増加。身長も伸びて身体が大人になり、高校年代では誰も止められないパワーが備わった。スピードの面でも、昨季にU-16日本代表の森山佳郎監督からお尻周りの筋肉を強化するように助言を受け、徹底して鍛えたことで相手を圧倒できるように。その結果、ジャンプ力も増し、空中戦では無類の強さを発揮するようになったのも2年生の頃だった。

そうした地道な積み重ねは技術面でも変わらず、練習後には黙々とシュートを打ち続けて精度を磨いてきた。昨季は武器を増やそうとし過ぎたがゆえに自分の良さを見失い、もがいた時期もあったが、ストイックに自分と向き合う姿勢は変えず、迷ったら立ち止まって整理する作業に没頭。過去の映像を見たり、スタッフに意見を求め、試行錯誤しながら“絶対的なストライカー”になるための階段を登ってきた。

迎えた今季は海外挑戦を視野に入れ、ボルシアMGのトレーニングに春と夏に参加。複数のJクラブからも興味を示され、国内外を巻き込んだ争奪戦が起こり、“福田師王”の行き先に注目が集まっていた。

だが、そうした注目度とは裏腹に、今季の福田は誰よりも苦しんでいたのは、あまり知られていない。欧州への渡航や代表活動に加え、Jクラブへの練習にも参加し、多忙な日々を送っていた影響でコンディションが整わなかったのだ。怪我に悩まされ、万全な状態でプレーできない日々が続いた。

夏のインターハイも満身創痍の状況だった。チームも新型コロナウイルスの影響で大会直前まで全体練習ができず、不完全燃焼のまま初戦となった2回戦で履正社に0-2で敗北。試合後、唇を噛んだ福田は震える声で何度も「自分の責任」と言い続け、ゴールを決められなかった自らを責めた。だが、他責にはしない。自分に矢印を向けて選手権での巻き返しを誓った。

吉田からは「今すぐにでも来い」と後押し

夏以降も怪我に悩まされていたが、徐々に状態が上がっていく。そして、迎えた10月27日、福田はボルジアMG入りを決断。Jクラブでプロのキャリアをスタートさせる選択肢もあったが、高卒での海外挑戦という困難な道にチャレンジする決意を固めた。

渡欧した際には、同チームに籍を置く板倉滉とドイツでプレーする吉田麻也と食事をし、「早い段階で世界を体験できると将来が変わる」(板倉)、「今すぐにでも来い」(吉田)と背中を押されたのも、大きな理由のひとつ。

そして、ドイツ語習得のためのカリキュラムなどを含めたクラブのバックアップ体制や、U-23チームだけではなくU-19チームで出場機会を得られる可能性も含め、自身の成長スピードを速めるうえで最善の選択と信じてドイツ行きを決めた。

「直接海外に行って活躍している選手があまりいないのですが、自分が成功例を作っていきたいと思っているし、成功しないといけない」(福田)

福田が会見で話した通り、過去に高卒で渡欧した選手が大成したケースは少ない。だが、そうした新たな道を切り開くためにも、福田はヨーロッパの舞台で成功したいと誰よりも願う。

「23年の目標は全国優勝と得点王です。そして、早くトップチームデビューをして、チームを勝たせられる選手になりたい」

コンディションは今までで一番良い。12月中旬の高円宮杯U-18プレミアリーグの参入プレーオフ1回戦後には、「痛いところがない状態でプレーできるのは今年初めて。本当にそれが嬉しい。全部、自分が描いたように動ける。本当に久しぶりで楽しい」と充実した表情を見せていた。

遮るものは何もない。高校年代最強のストライカーは自らの選択が間違っていなかったと証明するべく、最後のひのき舞台で大暴れを誓う。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)

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