写真:安藤隆人
エネルギーの源は周りの反応
右サイドバックで10番を背負い、キャプテン。実践学園のDF百瀬健には、どこか人を惹きつける魅力がある。
選手権東京都A予選準決勝で、実践学園は東海大高輪台と対戦。前半、実践学園は全校応援の東海大高輪台の生徒たちが詰め掛けたスタンドに向かっての攻撃となった。右サイドバックの位置から屈強なフィジカルとポジショニングの上手さを見せ、迫力満点のダイナミックなフォームから正確なクロスを上げる百瀬に対して、「凄いな、あの10番」と感嘆の声が挙がった。
プレーだけではない。後半33分に交代するまで、ピッチ上で仲間たちを大きな声で鼓舞し続け、ベンチに下がっても延長戦を戦った仲間たちに向けて、大きなアクションを交えて声を張り上げ続けた。
1-1で迎えたPK戦の時は、ベンチの前で仲間たちと肩を組んで祈る気持ちで見守った。その目にはすでに涙が流れるほど、百瀬は全身で勝ちたい気持ちと、仲間を信じる気持ちを表現し続けた。
その強い想いもあり、チームはPK戦の末に勝利を収め、5年ぶりの決勝進出を果たした。試合後、百瀬はハキハキとした口調で自分について語ってくれた。
「僕は足が速いわけではないですし、背も小さくて、これといった特長がない選手だと思っています。だからこそ、僕はキックや声で存在感を出し続けて、試合が終わった時に『あの10番が一番記憶に残っている』と言われるような選手になりたいんです」
相手のスタンドからの声は「もちろん聞こえました。正直嬉しかったし、もっと聞きたいと思った」と満面の笑顔を見せた。
百瀬のエネルギーの源は周りの反応。自分のプレーで勇気を持てたり、心を揺さぶることができると信じてプレーしている。そんな彼もこれまで周りの人たちに勇気をもらい、心を揺さぶられてきた。
そのなかの1人が今季、現役を引退したレジェンドレフティ中村俊輔だった。
神奈川県出身の百瀬は小学校時代にあざみ野キッカーズでプレーし、中学時代は横浜市都筑区を中心に活動するFCヴィアージャに所属。あざみ野キッカーズで仲の良かったチームメイトの父親が、中村だった。
送り迎えの車に乗せてもらったり、ご飯に連れて行ってもらったり、自宅に遊びに行くなど、日本を代表する偉大なプレーヤーに可愛がってもらっていた百瀬。時には中村の代名詞であるFKを直々に教えてもらうこともあった。
「ボールに対する足の入れ方と抜き方、助走の取り方、腰の捻り方まで、本当に細かいところまで熱心に教えてもらうことができました」
11月12日、國學院久我山との決勝戦に挑む
このFKの教えは今も大事に心に刻んであり、利き足は違うが、プレースキックの時には常にあのフォームがイメージにある。さらに驚いたのが、中村のプレーへの意識だ。
自宅で一緒にウイニングイレブンを対戦モードでプレーしていた時、中村のあまりの強さに百瀬は歯が立たなかった。その時に「俺はウイニングイレブンの感覚でプレーしているよ」と言われ、その意味が今、ようやく分かってきたという。
「小学生の僕には理解できなかったのですが、真剣に将来はプロサッカー選手になりたいと思うようになってから、それだけ俊輔さんはプレーしながら第三者としてピッチを俯瞰して見ていることが分かって、僕もそうなりたいと強く思うようになったんです」
自分にはスピードもサイズもない。しかし、中村から教えてもらったプレースキック、キックの強度がある。何より自分が一番サッカーが好きで、チームのために、周りの人たちのために気持ちを見せて戦えるスピリットがある。
「俊輔さんは本当にサッカーが大好きな人だということが伝わってきて、オフの日でもボールを蹴ったり、自分の身体と真剣に向き合っていた。それを間近で見てきたからこそ、僕も細部にこだわって、小さなことでも徹底してやることを苦じゃないと思えるようになったし、僕のような選手はそれをよりしないと生き残っていけないと痛感できた」
今、百瀬は学んできたことを身体いっぱいで表現しているからこそ、筆者も観衆も彼のプレーに惹き寄せられる。
いよいよ11月12日に5年ぶりの選手権出場をかけて、國學院久我山との決勝戦を迎える。最後に彼は今後に向けた決意をこう口にしてくれた。
「中村俊輔という偉大な選手の存在が、今の僕を作り上げていると言っても過言ではありません。いつか俊輔さんみたいな人を惹きつけるようなプロサッカー選手になれるように。自分の人生において選手権は通過点ですが、まずは決勝に向けて万全の準備をして臨みたい。勝負の神様は細部に宿るので」
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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鹿児島城西のMF芹生は、身体の使い方が上手く、パスセンスも高い司令塔だ。写真:松尾祐希 今年のチームは攻撃陣にタレントが揃う “半端ない”FW大迫勇也(神戸)を擁して選手権で準優勝を果たしてから15年。鹿児島城西が虎視眈々と復権の機会を狙っている。 鹿児島の高校サッカーと言えば――。2000年代の前半までMF遠藤保仁(磐田)やMF松井大輔(YS横浜)らを輩出した鹿児島実がその名を轟かせた。 近年は神村学園が躍進し、昨年度は福田師王(ボルシアMG)やMF大迫塁(C大阪)を擁してベスト4まで勝ち上がったのは記憶に新しい。インターハイは6年連続、冬の選手権も昨年度まで6年連続で出場しており、今季から2種年代最高峰のU-18プレミアリーグ高円宮杯に参戦するまでになっている。 一方で鹿児島城西は前述の通り、2008年度の選手権で日本一にあと一歩まで迫り、以降も神村学園と切磋琢磨し...



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