「3人プロを出し97人犠牲」では意味がない 高校サッカーの“見落とし”にドイツ人指導者が警鐘
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ゲルト・エンゲルス「日本サッカー育成論」第2回、大所帯の強豪校の現状に疑問符

 

 サッカー・Jリーグで横浜フリューゲルスや浦和レッズなど、4クラブの監督を務めたゲルト・エンゲルス氏は、1993年のプロ化以降、日本サッカーの急速な発展を当事者として見続けてきたドイツ人指導者だ。しかも初来日した当初は滝川第二高校サッカー部のコーチを務め、近年は女子サッカーの強豪INAC神戸レオネッサを率いるなど、Jリーグ以外の日本サッカーの姿も熟知している。

 

 30年以上にわたって母国と日本をつなぐエンゲルス氏に聞く育成論。今回は欧州からの評価が高まっている日本人選手の才能と、育成年代の実情について。今も昔も多くのサッカー少年が憧れる高校の強豪校は、100人以上の部員を抱えるところも少なくない。エンゲルス氏は、そうした変わらない現状に警鐘を鳴らす。「1人ひとりをもっと大事にする」指導を実現すれば、より多くの才能が芽を出すと力説する。(取材・文=加部 究)

 

 ◇ ◇ ◇

 

 横浜フリューゲルス最後の監督として1998年度の天皇杯を制したゲルト・エンゲルスは、2002年に日韓ワールドカップが開催される頃から日本の急成長を実感するようになった。

 

「日本代表のサッカーも進化し、決して簡単ではないグループリーグ(ベルギー、ロシア、チュニジアと同居)を突破してノックアウトステージへ進出した。初めて日本のサッカーは、本当に強くなるかもしれないと思った。申し訳ないけれど、まだ最初の頃に欧州へ進出していった選手たちの移籍は、半分以上がコマーシャルの意味合いを含んでいたと思う。でも香川真司、長谷部誠、吉田麻也らが活躍し始める頃からは、ただ在籍するだけではなく純粋に助っ人として評価を高めている」

 

 コロナ禍以降はドイツを拠点にしてきたエンゲルスも、現地での日本人選手へのスカウティングの変化を感じている。

 

「浦和レッズの監督時代(2008年)に埼玉スタジアムでバイエルンと試合をして、その時にスカウティングスタッフも来日しました。でも当時、彼らのターゲットは日本代表にデビューをしている若い選手たちだけでした。でも今ではシュツットガルトなどは、日本人選手たちが信頼度を高めた(遠藤航、伊藤洋輝、原口元気)こともあり、U-16の代表選手たちの名前も知っています。実際私もシュツットガルトの新聞社から『どうして日本人選手たちは、こんなに活躍できるのか』という取材を受けました」

 

25~30番目の選手も「試合に出ればもっと伸びる」

 

 現在、兵庫県の相生学院高校でテクニカル・ダイレクターを務めるエンゲルスは、過去に同県の強豪・滝川二高でも指導経験があるので、日本の育成事情にも詳しい。

 

「日本の強豪校は、サバイバルの状況に近い。指導者の数は限られているので100人以上の部員すべてには集中できない。公式戦に出るには、そこから11人に勝ち残っていく必要があり、それには強靭なメンタルが必要になる」

 

 よくスポーツの世界では「メンタリティはタレント(才能)以上に大切」と言われる。そう考えれば、育成年代でサバイバル合戦の場を提供している高体連の仕組みは理に適っているという見方もできるのかもしれない。しかしエンゲルスは懐疑的だ。

 

「高体連が優れているというよりは、Jアカデミーが良くないと見るべきなのかもしれない。例えば、私は成長過程の選手たちを一律年齢で区切るべきではないと思います。同じ15歳でも、成長のプロセスが13歳の子も17歳の子もいる。それを考えずに簡単に切り捨ててしまうと問題が起こる。それはJアカデミーにも十分に言えることです」

 

 実際に日本では中村俊輔、本田圭佑に象徴されるように、Jアカデミーでユース昇格を逃した選手たちが、後に日本代表で攻撃の中核を担う選手となった。

 

「今でも日本は十分に優秀な選手を輩出している。でも1人ひとりをもっと大事にすれば、さらに違う才能が芽を出してくるはずです」

 

 同じ強豪校に数百人もの選手が集中する。これでは丁寧な育成は不可能で、結果として多くの才能が犠牲になっていく。

 

「3人のプロを出すために97人を犠牲にしていたのでは意味がない。いつもチームで試合に出ている4~5人の選手たちは突出しているのかもしれない。でも25~30番目くらいの選手たちだって、試合に出ていればもっと伸びている。

 

 何より100人も部員がいて同じ選手ばかりが試合に出ていたら、チーム内での逆転が見えてこない。特に高校では移籍ができない。無名の高校にも、もっと早く良い環境に入れていれば優れた選手に育った選手が必ずいる。そういう選手たちをしっかりと見つけて欲しいですよね」

 

ドイツ5部から1部にステップアップした上月壮一郎の例

 

 京都サンガF.C.でユースからトップ昇格をして、プロにデビューをした上月壮一郎のドイツ行きを支援した経験がある。

 

「3年間トップチームに在籍したけれど、あまり試合に絡めず(18試合出場)、かつて私もプレーをしたドイツ5部のデューレンに移籍した。するとドイツでは一気にステップアップをして1年も満たないうちにブンデスリーガ1部のシャルケでスタメン出場を果たしたんだ。日本は、こういうケースを減らすことがとても大切だと思うよ」

 

 もちろんエンゲルスは、ドイツが全面的に手本になるとは考えていない。しかし少なくとも十分にポテンシャルを引き出し切れていない日本の実情を、歯痒く感じている。(文中敬称略)

 

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