青森山田の10番・小湊絆に突きつけられた現実。だがショックの先にあったのは絶望ではなく大きな希望だった
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デンチャレで3戦3発。充実の活躍ぶりだったが、小湊は強烈な危機感を覚えた。写真:安藤隆人



大学トップレベルのCBに片手で吹っ飛ばされる


「あのレベルを知ることができたのが、この大会での一番の収穫だと思います」

日本高校選抜の10番・小湊絆は、デンソーカップチャレンジ茨城大会の最終戦となる7・8位決定戦でチーム初勝利を手にした後に、感想をこう述べた。

昨年、青森山田では松木玖生から背番号10を託され、名門のエースとしてチームを牽引。日本高校選抜でも「集合した時に『小湊』という段ボールがあって、中を見たら10番だったのは驚いたし、気持ちが昂った」と、エースとしての期待を背負ってプレーした。

初戦の関東選抜A戦でスタメン出場を果たすも、ノーゴールのまま81分に交代。チームも1-3で敗れた。第2戦の東海選抜戦は卒業式出席のためにチームを離れたが、第3戦のプレーオフ選抜戦ではスタメンでフル出場を果たし、2ゴールを叩き出した。そして7・8位決定戦の関東選抜B戦では、0-1で迎えた48分にMF高足善のパスから左足シュートを突き刺して同点に。その4分後にチームは逆転弾をゲット。歴史的な勝利に小湊は大きく貢献した。

3試合出場で3ゴール。10番にふさわしい活躍で、チームメイトの多久島良紀と共に大会優秀選手にも選出された。

小湊にとっては充実した大会と思いきや、彼が体感したものは「とてもじゃないけど、今のままじゃ通用しない」という強烈な危機感だった。

「ゴールこそ決めていますが、実感的には大きな差があるんです。ボールを持ったら潰されるし、持ってもなかなか前に運べなかったり、ポストプレーでも力でねじ伏せられることが多かった。ここまで露骨に相手のパワーにねじ伏せられる経験は中学生以来。本当にショックだった」

大学生を相手に本来やりたかったプレーが全く出せなかった。特に関東選抜A戦が衝撃的で、大学トップレベルのCBである岡哲平(明治大)とマッチアップした時は、片手で吹っ飛ばされた。さらに「狙ったところに飛び込めたと思ったら、実は誘い込まれていて、完璧な形で奪われてしまった」と、相手の術中にまんまとはめられるほど、技術、フィジカル、駆け引きで大きな差を見せつけられた。

高校3年までは感覚でプレー

「中学の時に行ったドイツ遠征、韓国遠征で海外の選手と対峙した時に力でねじ伏せられて以降、高校サッカーではどの相手にもそんなことを感じなかったし、逆に自分のほうがフィジカルでねじ伏せることが多かった。でも、いざ今大会で自分が今までいかにフィジカルの強さでごまかしてきたことがはっきりと分かったし、本当の実力が浮き彫りになったと思います。起点になれない、ポストもできない、前も向けないとなると『なんでFWにいるの?』ということになる。それが今大会の僕でした」

まさに叩きのめされたような感覚だった。3ゴールという結果よりも、自分の感じた事実にきちんと目を向けていた。

裏を返せば、小湊がそれだけきちんと自分と向き合っているということになる。その視点が生まれたのは、実は高校3年生の1年間であった。

「中学時代は『いかにサボりながら、おいしいところを持っていこうか』と考えているような選手で、前からハードワークをする概念に少し抵抗を感じてしまうような選手でした」と振り返ったように、高校3年生になるまでの彼は、感覚でプレーをしているような、どちらかと言えば、わがままなタイプの選手だった。

「高校2年生の時は(松木)玖生さん(現・FC東京)、宇野禅斗さん(現・町田)たちがハードワークをして組み立ててくれたし、前線も名須川真光さん(現・順天堂大)にポストプレーや身体を張ったプレーを任せて、僕はひたすら相手の背後を狙っていた。動き出せば周りが良いパスをくれるので、あとは決めるだけでした。でも、昨年はそれでは通用しなくなった。名須川さんがやっていたことをやらないといけないし、その中で自分の良さも出していかないといけない。相当悩みながらプレーした1年間でした」

わがままでは成立しない。ましてや偉大なエースの松木から10番を引き継いだことで、チームのために全てのことをハイレベルでこなさないと周りは納得してくれない存在となった。

やらなくていいと思っていた前線からのハイプレスと、多少パスがずれても身体を張ってボールを収めたり、2列目以降の攻撃参加を引き出すタメやパスの自己犠牲を率先してやらないといけない。

「今まで、ここまで考えた時期はないくらい考えましたし、悩みました」

フィジカルでごまかさず、総合力を高める

苦しみながらも、小湊は「10番に恥じないプレーをしないといけない」とこれまで持っていたプライドを捨てて、なりふり構わず自分の殻を破ろうとした。その結果、シーズン終盤になると前線からの守備と個の打開力は格段に増し、青森山田のエースにふさわしい存在となった。だからこそ、彼は日本高校選抜でも10番を託されたのだった。

「前から歯を食いしばってでも走れるようになったし、ハードワークができるようになったことが、この1年間でつかんだ大きな財産。新しい自分を発見できました」

もし高校2年生までの小湊だったら、3ゴールを挙げた事実に満足してしまっていたかもしれない。だが、苦しんだ1年間が精神的にも彼を大人にしたからこそ、突きつけられた自らの課題に目を背けることなく向き合うことができた。

「自分のやるべき方向性が分かった。この経験がなかったら、ただのわがままな選手になっていたかもしれません。だからこそ、ここで打ちのめされたことは自分にとってプラス。自分がこれから4年間、このレベルでやれるんだと考えたら楽しみでしかないですし、パワーをつけるだけではなく、上手さと工夫、発想、駆け引きをもっと引き上げて、フィジカルでごまかさないように全体のアベレージを引き上げていきたい」

ショックの先にあったのは絶望ではなく、大きな希望と向上心。「10番は僕を成長させてくれる番号」と語る小湊は、進学先の法政大でも10番を背負い、チームのためになんでもできる選手になるために、大きな自覚と共に大事な一歩を踏み出した。

取材・文●安藤隆人
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