「自主練の鬼が指定校推薦」「選手権後にセンター受験→国立大合格」高校サッカー優勝校に見る文武両道「部活と勉強はお互いを…」
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第101回全国高校サッカー選手権で優勝を飾った、岡山学芸館高校。岡山県勢初優勝とともに、10数年前までは県内でも無名だったチームが日本一になったストーリーが話題になった。NumberWebでは高原良明監督、学校関係者に取材。サッカー部を中心に「部活と学校のありよう」についてどう考えているかを幅広く聞いた(全3回の3回目/#1#2へ)


15年前は空き地で練習していた岡山学芸館サッカー部。岡山県勢初の優勝を果たした全国サッカー選手権のメンバーには、Jリーグのクラブ入団内定者は1人もいなかった。その快挙は衝撃を与えたと同時に、サッカーの競技性や高校生に秘めた可能性を感じさせた。

さらに、サッカー部をはじめとする岡山学芸館の部活動は、生徒不足に悩む学校や文武両道を目指す学校にもヒントを示している。サッカー部員は現在135人の大所帯。1学年20人までというような強豪校では一般的なセレクションを実施していないため、希望者は誰でも入部できる。チームを率いて15年になる高原良明監督は「人数を絞ってチームを強くする考え方もありますが、個人的にはサッカー部に入りたい生徒は全て受け入れるのが当然だと思っています」と語る。

補習を受けてから練習に合流→レギュラーの選手も

サッカー部員は約6割が寮や下宿生活で、残りの4割は自宅から通っている。地元の町クラブ出身の選手にも十分チャンスがあり、実際に選手権で優勝した時のレギュラーは5人が地元組だった。

岡山学芸館には中学までは目立つ存在ではなく、一般入試からサッカー部に入って選手権のレギュラーを勝ち取った選手が少なくない。最近の代表的な選手といえば、2018年にベスト16まで進んだ時に左サイドバックを務めた伊藤柊都選手。左足からの正確なキックに磨きをかけ、苦手だった対人プレーを自主練習で徹底的に鍛えたという。選手権ではアシストを記録し、岡山県大会では直接フリーキックも決めている。高原監督は「とにかく真面目で信頼できる選手でした」と振り返る。そして、こう明かした。

「伊藤は他の選手より、練習時間が少なかったんです。補習を受けてから練習に合流していました。努力家で文武両道を実践した象徴的な選手でした」

選手権Vメンバー「自主練の鬼」は指定校推薦で…

文武両道を掲げる岡山学芸館には、英語科や医進サイエンスコースなど様々な科やコースがある。その中で、伊藤選手は難関国立大学の合格を目指す「スーパーVコース」に進み、大学進学に向けて部活前に1時間ほど補習を受けていた。100分トレーニングを掲げるサッカー部は練習時間が短い。伊藤選手は限られた時間に集中し、全体練習後の自主練習を有効活用した。時間内で最大限の結果を出す考え方は学業も同じ。通学で電車に乗っている時間も無駄にせず、勉強にあてていた。

そして、伊藤選手は全試合にフル出場した選手権の2週間後、センター試験(現在の大学入学共通テスト)を受験した。積み重ねた努力が実り、名古屋大学の経済学部に合格。部活でも勉強でも目標を実現させた。

今回の選手権優勝で原動力になった岡本温叶選手も、サッカーと学業を両立させていた。体格や運動能力は突出していなかったが、左右ともに精度の高いキックを武器にチームで不可欠な存在に成長。サッカーでは「自主練の鬼」と呼ばれ、勉強も努力を怠らなかった。高校卒業後は、指定校推薦で中央大学へ入学する。高原監督は「部活も勉強も真面目に取り組んでいました。課題や目標を明確にして、やるべきことを自分の中でしっかりと整理できていた選手です」と評する。

現役で難関大学合格を目指す選手が増えている

岡本選手は「スーパーVコース」に進める学力があったが、あえて国公立や難関私立大学を目指す「特別進学コース」を選択した。サッカーでレギュラーになるために自主練習の時間を確保しながら、ワンランク下のコースでトップレベルの成績をキープ。定期試験で好成績を残し、指定校推薦を勝ち取った。個々の生徒が描く将来に合わせてコースを選べるところに、岡山学芸館の特色が表れている。

サッカー部は2012年に初めてインターハイに出場してから、近年は全国大会の常連となっている。高原監督が就任した2008年は20人弱だった部員は2012年には50人となり、今は135人まで増えた。少子化によって地方都市では特に生徒確保に苦労する高校が少なくない中、サッカー部が岡山学芸館にもたらす効果は大きい。

実際、この15年間で生徒数は280人ほど増加して今では約1400人に上る。注目すべきは専願率と県外生徒の割合だ。2008年度に40.5%だった入学者の専願率は、2013年度は64.1%に上昇。さらに、今年度は88.3%まで増えた。入試担当の小笠原健二教頭は「サッカーだけ、勉強だけという高校は全国にあると思いますが、サッカーでインターハイや選手権に出場して現役で難関大学合格を目指す受験生が増えています」と話す。

「部活と勉強はお互いを補完し合って前に進む両輪」

岡山学芸館の生徒は約8割が部活に入っている。サッカー部のほかにも、野球部やテニス部、ダンス部や吹奏楽部など全国レベルの部活が多い。吹奏楽部は全国大会で何度も金賞を受賞し、現役で大阪大学や早稲田大学といった難関大学に進学する部員もいる。小笠原教頭は専願率の高さについて「寮や専用グラウンド、指導者といった全国大会を目指す環境、大学進学の実績、課題研究などの新たな教育観への取り組みに、受験生が魅力を感じていただいていると感じています」と分析する。

県外生徒の割合も、この15年で大幅に変化した。

2008年度は1113人の生徒に対して岡山県外の生徒は62人と、わずか5.6%だった。だが、サッカー部が初めてインターハイに出場した翌年の2013年度は16.3%まで上がった。今年度は1397人の生徒のうち、338人が県外生で24.2%を占めている。部活も勉強も結果を残す生徒が増えたことで、入学希望者が全国から集まっているのだ。市本秀雄教頭は「サッカー部をはじめとする部活動の活躍で、『どうしても岡山学芸館に行きたい』と選んでくれる生徒が増えました。部活と勉強はお互いを補完し合って前に進む両輪の役割と考えています」と語った。

「注目度が高くなった分、今まで以上に緊張感を」

サッカー部の全国制覇で岡山学芸館の知名度は上がり、新年度以降さらに入学希望者が増えると予想される。他の部活に励む生徒へのモチベーションにつながり、文武両道の好循環が加速するだろう。高原監督は日本一効果の大きさを実感し、さらなる高みを目指している。

「普段はサッカーを見ない方々からも声をかけられるようになりました。注目度が高くなった分、問題を起こせば評判は一気に落ちます。今まで以上に緊張感や責任感を持ちながら、行動していかなければいけないと強く思っています」

少子化によって学校運営に苦労する私立高校は少なくない。だが、時代は変わっても、生徒が部活や勉強を通じて成長したい向上心は不変。その思いを実現できる環境が整っていれば、志の高い生徒は自然と集まってくる。高原監督が指揮するサッカー部15年間の軌跡が証明している。

#1#2からつづく)


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