〈秀岳館だけではない高校サッカー強豪校と抑圧問題〉“監督の独裁”から選手主体になったチームは何をどう変革したのか
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秀岳館高校の件で再び暗い影を落とす「部活における暴力・抑圧」問題。これについて長年現場を取材しているサッカーライターが、高校サッカー取材を通して得た知見を配信します(#1、#2も)。

 

 中学生の進路選択のために、高校サッカー部OBから情報を集めて公開している「Foot luck」というWEBサイトがある。秀岳館高校卒業生の口コミは1名のみだが、それでも十分に同校の事情は伝わって来る。

 

「パワハラというか、指導者が偉そうにして選手に恐怖心を与えています。のびのびとサッカーを楽しめませんでした」

 

 後進へのメッセージは次の通りだ。

 

「寮での生活や学校は、色々ひどいです。同じ熊本なら他の学校でサッカーをする方が最終的には幸せかと思います」

 

 上意下達で染まった部活の環境は、どこも似ている。ある選手権優勝経験校で、Jアカデミーから入学した選手がその後の日常生活にも支障をきたす酷い故障に苛まれ退学したケースがあった。

 

 当時この高校のスタッフは全てOBで、取材をすると監督は嘘を上塗りした逃げ口上を繰り返し、連座するコーチ陣は俯いたまま沈黙を貫いていた。質問を投げかけても、監督の意に反する回答をしてしまうことが怖くて口を閉ざしている様子だった。

 

「理不尽に耐え抜いたからこそ」の成功者ばかりでは

 

 このタイプの強豪校では、選手たちもスタッフ間の徹底した上下関係を見ているので同様のヒエラルキーを継承していく。上級生は下級生の上官として振る舞い、部の頂点で安座する裸の王様には一切異論が出ない。

 

 だから不祥事が発覚すると、世情とあまりに乖離した的外れな対応が飛び出してくる。まさに秀岳館はその典型で、生徒の言葉で突然切れたコーチはわざわざ相手に背中を向けさせ、被害者が先行して謝罪動画を出す不自然さが、どんな疑惑を招くのかを想像する社会性も持ち合せていない。

 

 まさか日本で、ウクライナに攻め込むロシアの実質的な独裁体制を讃える声は出て来ないはずだ。しかしそれと酷似する恐怖政治の部活を最善だと信じ、そこで鍛えて欲しいと願う親、それを当然視するファン、さらにその中に入って勝ちたいと願う子供たちは、依然として相当数存在する。

 

 これまでは冒頭のようにOBの声が漏れて来ることはなかったから「理不尽に耐え抜いたからこそ今がある」と伝承する成功者ばかりが連なり、それは紛れもなく日本スポーツ界の宿痾と化している。

 

インハイ制覇の広島観音、選手権ベスト8の堀越も以前は

 

 実は選手主体のボトムアップ方式で好転した堀越高校や、その原点を築いた畑喜美夫監督が牽引した広島観音高校も、かつては同じ潮流に浸っていた。

 

 荒れた生徒たちを鎮めるには、上から規律で締め付け、そのためには厳罰も辞さない構えだった。しかし畑や、彼から学んだ堀越の佐藤実監督は、押さえつける代わりに生徒たちに主導権を手渡した。

 

 結論から言えば、両校ともにサッカーの成績が向上しただけではなく、日常から選手たちの積極的な言動が目立つようになった。

 

 広島観音は全国大会の常連となり2006年にはインターハイ制覇を果たし、堀越は2020年度の全国高校選手権に29年ぶりの出場を果たすとベスト8まで勝ち進んだ。一方畑が異動して来た安芸南では高校全体がボトムアップ志向へとシフトし、2018年の西日本豪雨の際には生徒たちが自主的に連絡を取り合い真っ先に災害支援に駆けつけ、海外メディアからも賞賛された。

 

「ノーコーチング」を貫いた源流のクラブとは

 

 人は抑圧されれば反発し、信頼されれば責任を自覚して動き出す。上意下達ではなく、真逆のボトムアップを志向した高校の変貌ぶりが如実にそれを証明している。

 

 遡れば、その源流は、畑が育って来た広島大河FCにある。1974年に同クラブを創設した浜本敏勝は、試合が始まれば子供たちの主体性を尊重し「ノーコーチング」を貫いた。

 

「サッカーではボールを持つ選手が王様。その王様に対して『ああせい、こうせい』と言うもんじゃない」

 

 横道に逸れそうな生徒がいれば、同じ目線で優しく語りかけ愛情を注いで信頼した。やがて生徒たちは浜本が大好きになり、浜本を裏切らないために襟を正すようになった。

 

指揮権を託されたキャプテンは重圧に震えた

 

 堀越高校の佐藤監督は、何度か広島まで足を運び浜本や畑から学び、確信を持って選手主体の部活へと舵を切った。

 

 だがある日突然監督から指揮権を託されたキャプテンは、あまりの重圧に震えた。その日から必死にサッカーを学び、何をするにも話し合いの場を設け、チームメイトの状況を把握し、メンバーを決めて采配を振っていく。当然個人の容量を越え、遂に調子を崩して主将自らメンバー外を選択した。

 

 しかし部員たちは、みんなで任された活動だからと、一緒に責任を担う選択をしていく。少しずつ得意分野で主将を助ける者が現れ、次の主将は全員が何らかのリーダーを務める制度を整え、さらに翌年度の主将は最上級生ながら真っ先にグラウンドに現われ率先して準備を始める。そして主将が動く姿を見て、学年に関係なく個々がやるべきことを悟っていくのだった。

 

 堀越高校サッカー部の主将たちは、誰もが体重が減ったり顔中にニキビを作ったりして葛藤して来た。日常的にはチームメイトたちのプレーぶりに目を配り、試合が始まれば相手の出方を見て戦術を修正していく。

 

 もしハーフタイムに誰からも発言がなければ口火を切らなければいけないから、片時も頭を休めるわけにはいかない。だが伝統を重ねていくうちに全体に責任の意識が浸透し、やがて現場は活発な意見交換の場へと発展していく。

 

 誰のためでもない。選手たちは自分たちで定めた目標へ向けて、自分たちのために努力を重ねていく。そうなると、そこに非行、暴力、苛めなどが入り込む余地は消えていった。

 

「人に言われてやっているようでは成長しない」

 

 まだ多くの部活の現場では、疑問を覚えた選手に対して「オレの言ったことだけやっていればいいんだ」と聞く耳を持たない大御所がいる。そんな部活が楽しいわけがないが、「高校サッカーとは、そういうものだ」と経験論に埋没したままの若いコーチも少なくない。この国には狭い世界で一方的に押しつけられた旧い指導しか知らない若輩も溢れていて、だからこそ問題は根深い。

 

「毎日の部活が高校生活一番の宝物」

 

 新刊のタイトルは、2020年度に同校を卒業したOB馬場跳高から出た言葉だ。

 

「ここへ来て何が足りず、何を伸ばすべきなのか、自分で考えられたのが良かった。人に言われてやっているようでは成長しない」

 

 奇しくも馬場の言葉は、ボトムアップを導入した畑の論理と重なる。彼は高校3年間で、自ら大切な真理に辿り着いたことになる。(文中敬称略/#1、#2も)

 

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