数多の日本代表戦士を育てた80歳・名伯楽は、なぜ母校の浦和高校に舞い戻ったのか
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「一番大切なことは、学ぶために最適な環境を提供することです」

 

 

「私が在学していた当時、イチョウの木はいまとは反対側に植えてあり、シュート板は現在の部室の前に設置されていたんですよ」

 

 埼玉県立浦和高校サッカー部OBで、筑波大学名誉教授の松本光弘さんは、母校のグラウンドを見渡しながら、懐かしそうに往時の風景を説明した。

 

 同校サッカー部の歴史は輝かしい。学制改革で浦和中学から浦和高校となり、名称が全国高校蹴球選手権に変わった1948年度の第27回大会に埼玉県勢として初出場。第30回大会で初優勝を遂げ、第33、34回大会では連覇を達成した。2年生の松本さんは第37回大会にサイドバックで出場したが、初戦の2回戦で島原商(長崎)に1-2で屈した。

 

 犬飼基昭・元日本サッカー協会会長、村井満・現Jリーグチェアマンは著名なOBだが、ほかにもサッカー界に貢献した卒業生は大勢いる。柴田宗宏氏は読売クラブ(現東京ヴェルディ)創設に尽力したひとりで、70年代は7人だけだった日本人国際審判員のうち、OBの浅見俊雄、倉持守三郎、藤井泰光の3氏が同時期に担当していたこともあった。

 

 松本さんがそんな母校の指導を始めたのが昨年12月22日だ。昨秋、同級生との懇親会がきっかけで実現したのだが、「選手を教えるだけではなく、指導者に学んでもらう研修の場にもしたかったのが本意です」と説明する。浦和高校と東京教育大(現筑波大)で松本さんの2つ後輩、元埼玉県サッカー協会副会長の星野隆之さんは「これまでの指導歴、研究歴は出色です。必ずチーム全般のためになると思い、監督との橋渡しをしました」と述べる。

 

 東京教育大蹴球部コーチや福島大サッカー部監督を経て、78年に監督として筑波大に戻った松本さんは、風間八宏や長谷川健太、井原正巳や中山雅史ら無数の名選手を育て上げた。浦和南が全国高校選手権を制した陣容からは田嶋幸三、森田洋正、野崎正治を指導した。

 

「一番大切なことは、学ぶために最適な環境を提供することです。選手に原理原則を与えて変化が出てきたら、指導者はさらに踏み込んだアプローチをしないといけません。指導とはこういうものだと思います」

 

ここまで7か月間の指導でチームの変化を実感

 

 研究と学習に明け暮れた足跡こそ、松本さんの自分史でもある。

 

 日本協会が初めて開催したコーチングスクールや日本サッカー界初の外国人コーチ、デットマール・クラマー氏が専任コーチとなった国際サッカー連盟主催のアジア・コーチングスクールに参加。西ドイツを拠点にした6か月間の研修では、ボルシア・メンヘングラッドバッハのヘネス・バイスバイラー監督が主任講師を務めたフットボール教師養成講座を受講し、イングランドでも指導者コースで多くを学んだ。いずれも70年代初頭のことだ。

 

 母校に昨年末赴き、今年の1、2月はコロナ禍で練習を自粛したが、ここまで週2日の指導を7か月間実施してきた。4月に習熟度などをテストすると望外の好結果を得た。「私がまとめた指導論を読んでから参加しているので、要点を抑えた練習になります。私のやり方に興味を持ち始めてからは、スポンジが水を吸収するように自分たちのものにしていきました」と一定の成果を喜ぶ。

 

 実感するのは選手自身だ。主将のMF狩野拓夢は「試合の得点シーンなどを振り返ると、練習でやっていたことが多いんです。パスで展開する戦術や技術面が向上し、松本先生から学んでいることの正しさを感じる」と、チームの変化に驚いていた。

 

 良い指導者の輩出、というもうひとつの大義はどうか。OBでもある就任5年目の本田哲也監督は「サッカーの原理原則を体系的にまとめ、頭の中で構築されている。これをきちんと伝えられる指導者を目ざして学ばせていただいています。勉強になることが多い」と感謝する。

 

 高校からサッカーを始めた松本さんは、ここで生涯の恩師である福原黎三監督に出会ったことで人生が決まり、サッカー界で従事することになる。「60数年たったいまでも、“サッカーで哲学しろ”という言葉が鮮烈です。グラウンドに入ったらすべてを忘れ、無になることを教えていただいた」と言って涙腺を緩ませた。

 

 福原監督は現役の日本代表FWとして56年に着任。竹腰重丸監督時代、後にそろって日本協会会長となる長沼健、岡野俊一郎ともプレーした。犬飼元会長も教え子で、浦和レッズの社長時代「多感な年ごろに受けた影響は計り知れない。サッカーマンとして、人として、男としての生き方を学んだ」と述懐している。

 

つくば市から片道2時間をかけて通う日々

 

 

 松本さんは筑波大監督時代に全日本大学選手権を2度、関東大学リーグ1部を5度制し、全日本大学トーナメントは3度優勝。東京教育大からの伝統を引き継ぎ、コーチ、監督、部長として27年間も蹴球部を支えた。95年まで日本協会コーチ養成コース主任講師を22年間担当。その豊富な知識と経験を福原監督の薫陶を受けたピッチで伝えている。

 

 茨城県つくば市の自宅から片道70キロ、車で2時間以上かけて通うのも選手と指導陣のためだ。

 

「80歳になって、母校のグラウンドで指導できるのは感慨深いものですね。いまは1試合でも多く勝ってほしい。それがやってきたことへの裏付けとなるわけですから」

 

 今年度の全国高校選手権は節目の第100回大会。埼玉県予選1回戦の相手は、川崎フロンターレなどに在籍した浦田尚希監督が指揮する埼玉平成だ。

 

取材・文●河野 正

 

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